「あっ」
アブラゼミの声が、少しうるさいBGMになっている頃、優希が立ち止まって声を発した。
聞こえるか聞こえないか、本当は発してないんじゃないかと思うくらいだったので、俺は聞こえてないフリをして歩く。
「ちょっと、待って!」
すると今度はハッキリとした声量で、声が聞こえた。
「なんだよ。」
俺は立ち止まり、めんどくさそうに振り返る。
「アイスの自販機、チョコミントある」
優希は単語をつなげたような棒読み具合で言った。
優希の目線の先には、少し控えめに駅の端に設置されたアイスの自販機が見えた。
「ちょっと買ってくる」
優希は小さい歩幅で自販機まで走った。
俺も仕方なく、自販機まで歩く。
ピッ
「あっ」
自分でもわからないくらい、俺は高い声を発した。
昔の優希の姿が、目の前の優希と重なった。
まだ、化粧が下手で、目元のアイラインが少し気になってたあの時の優希と。
そう。
ここは。
ここで買ったチョコミントは俺達にとって、少し特別だった。
6年前、俺はここで優希に告白したんだっけか。
あの時もカンカンに晴れた日で、かなり汗をかいていたっけ。
そんなことを考えながら、
つい、こんな言葉が出た。
「結婚しよう。」
チョコミントが溶けて、
優希の手を伝い
地面に落ちるまで
俺と優希は黙ってお互いを見つめていた。
優希はそのまま、コクっと頷いた。